防爆とは?
化学プラントや発電所などの工場では、可燃性ガスや蒸気または粉じんが発生し、爆発や火災が起こる危険性があります。
「防爆」とは、そうした危険場所で電気機器を使用する際に、防爆性能の備わった電気機器を使用し、爆発や火災を防止することをいいます。
では、どういった場所でどのような防爆機器が必要とされるのでしょうか。このページでは、危険場所の分類、防爆機器の構造、仕様書に記載されている防爆性能の表示について解説します。
防爆機器とは?
「防爆機器」とは、防爆規格に適合した機器のことです。
日本の防爆規格には「電気機械器具防爆構造規格」と「国際整合防爆指針」があり、どちらかの防爆検定に合格する必要があります。この検定は公益社団法人産業安全技術協会(TIIS)等の機関によって行われており、合格した機器のみが防爆エリアで使用可能です。
国際規格(IECEx)、ヨーロッパ規格(ATEX)、アメリカ規格(UL)など、世界には様々は防爆規格がありますが、これらの規格に合格した防爆機器であっても、日本国内で使用する場合は日本国内の検定に合格する必要があります。
危険場所の分類
可燃性ガスの発生する場所または爆発の危険性がある粉じんが発生する場所のような防爆エリアは、危険度によって以下のように分類されています。
Zone0(0種危険場所) | 可燃性ガスが連続、長時間または頻繁に放出される |
Zone1(1種危険場所) | 可燃性ガスが時々放出される |
Zone2(2種危険場所) | 可燃性ガスが異常時に放出されることがあるが、短時間しか放出されない |
Zone20 |
爆発性の粉じんが連続、長時間または頻繁に放出される |
Zone21 | 爆発性の粉じんが時々放出される |
Zone22 | 爆発性の粉じんが異常時に放出されることがあるが、短時間しか放出されない |
主な防爆機器の構造
防爆機器には様々な構造があります。それぞれの構造の特長とメリット・デメリットを解説します。
本質安全構造
構造 | 正常状態および仮定した故障状態において、電気回路に発生する電気火花および高温部が規定された試験条件で規定の試験ガスに引火しない構造です。 |
メリット | ●ゾーン0で使用可能です。 ●小型・軽量化が容易です。 ●検出器やスイッチ等の防爆化が容易です。 |
デメリット | ●消費電力の高い機器には向いていません。 ●携帯機器(電池を使用する機器)以外は安全保持器(バリア)および本安専用の配線が必要です。 |
耐圧防爆構造
構造 | 防爆ハウジング内部に爆発性雰囲気が侵入し、内部爆発が起こったとき、防爆ハウジングが内部爆発による損傷を受けず、接合部分や開口部を通して外部の可燃性ガスや蒸気に引火することのない構造です。 オリエントブレインのほとんどの防爆機器はこの耐圧防爆構造により安全性を保持しています。 |
メリット | ●防爆化が比較的容易です。 ●小形・中形の電気機器の防爆化に適しています。 ●ほかの防爆構造と組み合わせやすい構造です。 |
デメリット | ●ハウジングに堅牢度が求められるため、重量が重くなります。 ●内部爆発が起こった際、内蔵機器が損傷する可能性が高いです。 |
内圧防爆構造
構造 | 防爆ハウジング内の保護ガスの圧力を、外部の雰囲気を超える値に保持、またはハウジング内のガスあるいは蒸気の濃度を爆発下限より十分に低い値に希釈することによって爆発性雰囲気の発生を抑制する構造です。 |
メリット | ●制御盤などの大型機器に最適です。 ●分析計などの防爆化が困難な機器の防爆化が可能です。 |
デメリット | ●保護ガスが必要です。 ●掃気時間が必要で、再度電源投入するまで時間がかかります。 ●内圧を計測する装置が必要です。 |
安全増防爆構造
構造 | 正常時、点火源になる恐れのない電子機器をハウジングに収容し、電気花火や高温部が生じるのを防止した構造です。 |
メリット | ●軽量化が容易です。 ●グループⅡCへの対応が容易です。 |
デメリット | ●点火源にならない電子機器のみに適用されるため、防爆化できる機器が限定的です。 ●構造規格ではZone2でしか使用できません。 |
樹脂充てん防爆構造
構造 | 火花または熱によって爆発性雰囲気に引火することのできる部分が、動作条件または設置条件下で爆発性雰囲気に引火しないように、樹脂で囲まれている防爆構造です。 |
メリット | ●軽量化が容易です。 ●ほかの防爆構造と組み合わせやすい構造です。 |
デメリット | ●使用環境に適合した樹脂を選定する必要があります。 |
タイプn防爆構造(非点火防爆構造)
構造 | 正常運転時およびある特定の異常状態で、周囲の爆発性ガス雰囲気を発火させることのない電気機器に適用する防爆構造です。爆発性ガス雰囲気が生成される可能性が少ないZone2で使用されます。 |
メリット | ●軽量化が容易です。 |
デメリット | ●Zone2でしか使用できません。 |
防爆性能の表示
防爆機器の仕様には「ExdⅡCT6Gb」のような防爆構造の記号が記載されています。
これは、防爆構造の種類、防爆電気機器のグループ、温度等級、保護レベルを表していますが、「ExdⅡCT6Gb」はどのような性能なのでしょうか。それぞれの表示を解説します。
防爆構造
Exd ⅡC T6 Gb
はじめに防爆構造の記号の「Exd」の部分について解説します。
これは防爆構造の種類を表しています。以下の表から「Exd」は耐圧防爆構造ということが分かります。
防爆構造については防爆構造の章をご参照ください。
防爆構造の種類 | 防爆構造規格 |
本質安全防爆構造 | Ex ia, ib, ic |
耐圧防爆構造 | Ex d (db, dc) |
内圧防爆構造 | Ex p (px, py, pz, pxb, pyb, pzc) |
安全増防爆構造 | Ex e (eb, ec) |
特殊防爆構造 | Ex s |
樹脂充てん防爆構造 | Ex ma (mb, mc) |
タイプn防爆構造 | Ex n |
※()内の記号は国際整合防爆指針(整合指針)2015 、2018における防爆構造の記号です。
容器による粉じん防爆構造の種類は、防爆規格の記号ではなく国際整合防爆指針(整合指針)の記号によって表されます。
構造の種類は対応する危険場所によって分類されています。
防爆構造 | 整合指針の記号 | 危険場所 |
容器による粉じん防爆構造 | Ex ta | Zone20、Zone21、Zone22 |
Ex tb | Zone21、Zone22 | |
Ex tc | Zone22 |
可燃性ガスのグループと温度等級
Exd ⅡC T6 Gb
次に、「ⅡC」「T6」の部分です。こちらは可燃性ガスグループと温度等級を表しています。
温度等級は電気機の最高表面温度によって分類されています。
例えば、アセトアルデヒドは「135℃を超えると点火する恐れがある」ので、T4に分類されています。そのため、アセトアルデヒドの雰囲気がある場所では「T1~T3の機器を使用できない」ということになります。
温度等級 | T1 | T2 | T3 | T4 | T5 | T6 | |
電気機の最高表面温度 | 450℃以下 | 300℃以下 | 200℃以下 | 135℃以下 | 100℃以下 | 85℃以下 | |
可燃性ガスグループ | ⅡA | アセトン アンモニア 酢酸エチル トルエン ペンゼン メタン エタン 酢酸 i-ブタン |
1-ブタノール 無水酢酸 プロパン メタノール n-ブタン 塩化ビニル |
n-ヘキサン | アセトアルデヒド | 亜硝酸エチル | |
ⅡB | 一酸化炭素 シアン化水素 |
エタノール エチレン エチレンオキシド フラン |
エチルエーテル | ||||
ⅡC | 水素 | アセチレン | 二硫化炭素 |
可燃性ガスは最大安全すき間の範囲によって分類されています。可燃性ガスに対する最大安全すき間の範囲は、防爆構造の種類によって異なります。
耐圧防爆構造の場合は以下の通りです。
グループ | 最大安全すき間の範囲 |
ⅡA | 0.9mm以下 |
ⅡB | 0.5mm超~0.9mm未満 |
ⅡC | 0.5mm以下 |
以上の表から、この機器は最も狭い最大安全すき間が求められるガスおよび最も低い温度環境が求められるガスを含むすべてのガスに適合しているとわかります。
容器による粉じん防爆構造の場合、「T+最高表面温度」で表示されます。
以下の機器の場合、最高表面温度は60℃です。
保護レベル
Exd ⅡC T6 Gb
最後に、「Gb」の部分です。これは、どの危険場所に対応しているかを表しています。
以下の表から、この機器はZone1、Zone2の危険場所での使用に適しているとわかります。
保護レベル | 対応する機器 | 危険場所 |
Ga | 最も高い保護レベルをもつ機器。 爆発性ガス雰囲気で使用したとき、点火源にならない。 |
Zone0、Zone1、Zone2 |
Gb | 高い保護レベルをもつ機器。 爆発性ガス雰囲気で使用したとき、点火源にならない。 |
Zone1、Zone2 |
Gc | 強化した保護レベルをもつ機器。 爆発性ガス雰囲気で使用したとき、点火源にならない。 |
Zone2 |
Da | 最も高い保護レベルをもつ機器。 爆発性粉じん雰囲気で使用したとき、点火源にならない。 |
Zone20、Zone21、Zone22 |
Db | 高い保護レベルをもつ機器。 爆発性粉じん雰囲気で使用したとき、点火源にならない。 |
Zone21、Zone22 |
Dc | 強化した保護レベルをもつ機器。 爆発性粉じん雰囲気で使用したとき、点火源にならない。 |
Zone22 |
まとめ
防爆機器を選定するときは、危険場所に対応した機器を選定しましょう。
防爆機器の設置は、取扱説明書に従って正しくご使用ください。誤った方法で設置すると、防爆性能を保持できず、爆発や火災の原因になります。
防爆製品の選定でお困りの際は、ぜひオリエントブレインにお問合せください。